ぼくは本屋のおやじさん ★★★☆


ぼくは本屋のおやじさん
早川義夫著
晶文社
★★★☆

「サルビアの花」、「NHKに捧げる歌」で有名な元(現?)フォーク(ロック?)歌手、早川義夫の書店エッセイ。
数十年前、歌手をやめて、「座っていればいいのではないか」と思って本屋を始めたそうな。
取次に要望を出している本が届けられずに、不要な本ばかりが届けられる(誤りではなく意図的らしい。書店業の慣例だそうで)など、中に入ってみないとなかなかわからない現実が出てくる。これだけ取次や出版社から嫌がらせされる業種だとは、不勉強ながらまったく知らなかった。エッセイなので基本的にはボヤキであるが、これを読むと書店業はちょっとやりたくないなと思ってしまう。早川氏自体があまり商売に向いていないよう(著者自身何度もそう書いている)で、そのストレスが、読むこちら側にも伝わってくる。ちょっとした疑似体験だ。同じ疑似体験でも、『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』とは正反対である(こちらは、ちょっとやってみても良いかなと思ったが……まったく反対)。嫌な客、嫌な出版社営業担当、問題のある書籍販売システム……これだけいろいろあってよく商売続けてられるなと思うほどだ。
この本の早川氏のイメージと、歌手の頃のイメージとの間に大きなギャップがあるのも面白い。歌手としての早川義夫は、シニカルでウィットに富みはっきりものを言うというようなイメージだったが、この本に出てくる早川氏は、人前に出たがらない物静かで影が薄い人というイメージだ。つげ義春のイメージに近いというか(本書の中でもつげ義春への共感が語られているが)。本書を読み終わった後も、2つのイメージが重ならない。
文章はかなり雑で、この辺は「サルビアの花」と共通する(「サルビアの花」も「あなた」と「君」が並んで出てきたりして相当雑)。むしろ散らかっているという印象。ですます調とである調が並んでいたり(どうも意図的にやっているのとは違うようだ)、話し言葉のように論点がはっきりしなかったりしている。だが、それも「味」に転化されていて、まあ悪くはないなと感じたりもする(この辺ちょっと早川調の言い回し)。
ともかく書店の大変さだけはよくわかった。ちなみにこの本は、『就職しないで生きるには』というシリーズの1冊なんだが、どうも趣旨から大きく外れてしまっているような……

投稿日: 水曜日 - 7 月 13, 2005 10:56 午後          


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