思しきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心ちしける(大宅世継)

批評、随筆、芸術のアーカイブ・サイト……竹林軒

2004年の5本:書籍

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書名

著者

出版社

1

末期ガンは手をつくしてはいけない

金重哲三

中経出版

2

評伝 山中貞雄

千葉伸夫

平凡社

3

ヤクザリセッション

ベンジャミン・フルフォード

光文社ペーパーバックス

4

木に学べ 法隆寺・薬師寺の美

西岡常一

小学館文庫

5

クルマを捨てて歩く!

杉田聡

講談社+α新書

番外

「できない男」から「できる男」へ

伊藤公雄

小学館




 好きな本だけ読みたいところだが、自己防衛のためにいろいろな本を読まなければならない。いやな世の中になったものです。とは言え、2004年のベスト5は「好きな本」が中心。
 2004年に読んだ92冊のラインアップは こちら (とばし読みの本、未読了の本は含まず)。その中から5冊+1冊を選んでみました。ちなみに、私はフィクションはほとんど読みません(昨年は2冊)。なぜって……なぜでしょうね。ですから、ノンフィクションのベスト5ということになります。
 第1位の 『末期ガンは手をつくしてはいけない』 は、患者の臨死に立ち会うことの多いホスピス医の立場から、末期ガンになったら、ムダでありいたずらに患者を苦しめるだけのガン治療を拒否して、ありのままに死を受け入れるべきだと説く本。望ましい死に方は、「覚悟して捨て、感謝して逝く!」ことであり、生への執着を捨てることこそ重要なのだと言う。心が洗われるような逸品で、2004年のベストに据えた。
 第2位の『評伝 山中貞雄 若き映画監督の肖像』は、映画監督、山中貞雄の評伝。山中貞雄は、生涯20数本撮影しながら27歳で戦死した映画監督で、その作品は現在3本しか残っていないがそのどれもが傑作という、まさに日本映画界の伝説。この本では、山中貞雄の周囲の人々のインタビューや、雑誌記事、手紙などをモザイクのように組み合わせながら、山中貞雄という人間を生き生きとよみがえらせている。山中貞雄と同時代に生きているかのような錯覚さえ受ける傑作評伝で、山中貞雄の人間的な魅力も十二分に伝えている。こちらも心が洗われるようだ。
 うってかわって第3位の『ヤクザリセッション』は身震いするような恐ろしい本で、日本の構造的な問題を、政治、産業、ヤクザの三極構造で解明する。重大な秘密を握った人々が、次々に不可解な自殺で死んでいる(多くは遺書のような走り書きを残して)が、実は殺されているのだと言う。著者のベンジャミン・フルフォードは日本在住のカナダ人だが、このような本を出したら命が危ないと脅されていたらしい(実際出版社にも圧力がかかったという)。ともかくそのくらいショッキングな内容だが、日本人であれば知っておくべきことでもある。フルフォードの同様の本は現在シリーズとして3冊、同じ出版社から出ているが、2冊目のこの『ヤクザリセッション』がもっとも衝撃的で、内容も信憑性がある。日本は重病だ。
 第4位の『木に学べ 法隆寺・薬師寺の美』は、法隆寺の宮大工、西岡常一の建築論であり哲学。法隆寺や薬師寺(どちらもみずから修理や再建に携わった)の建築物について作り手の側から丁寧に解説しており、いかに飛鳥の大工技術が優れているかを説く。数ある西岡常一の本の中で、当人がもっとも気に入っていたという本だけに、読みごたえがある。この本を読むと、法隆寺や薬師寺に行きたくなること間違いなし(私はこの本を読んでから法隆寺に行きました)。
 第5位の 『クルマを捨てて歩く!』 は、自動車に依存する生活をやめることで、お金が増え、体力がついて、しかも環境が良くなり、時間が増えると主張する本。自動車嫌いと自動車依存症の両方の人向き。
 番外の『「できない男」から「できる男」へ』は男性学の本だが、目から鱗の本。(私も含めて)独善的な男性諸氏はぜひ読んで、心の洗濯をすると良いだろう。いっこうに堅苦しさはなく楽しく読める。