思しきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心ちしける(大宅世継)

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「竹林軒出張所」批評選集:ドラマ

今見たいドラマのベスト3に入るドラマで、『快刀乱麻』というタイトルの、一種のミステリー・ドラマである。

『快刀乱麻』第21話「鳥と鳥とをとりちがえ」。

『快刀乱麻』第25話「空手の約束は空手形」。

「竹林軒出張所」選集

内田喜郎と快刀乱麻

 
(暗い画面に音楽が静かに流れる)
(語り)「かいと~お、らんまっ!」
「第21回、キリストの返事はいつもイエス!」
(歌が入る)♪少~女~ひとりぃ~ 白いうぅまぁに乗ぉてっ~駆けて・ゆ・く 霧のなぁかぁ~(チャラチャラチャラチャ~ララララ~)

 こういう感じでドラマのオープニングが始まる。記憶は多少間違っているようだが、それでもかなり憶えているんで、やはり当時のインパクトが大きかったんだろう。今見たいドラマのベスト3に入るドラマで、『快刀乱麻』というタイトルの、一種のミステリー・ドラマである。
 先日、ネットで内田喜郎の名をたまたま目にし、ちょっと懐かしくなって「内田喜郎 快刀乱麻」で検索してみると、ズラズラッと出るわ出るわで、やはり多くの人の印象に残っているドラマのようだ、この『快刀乱麻』は。ちなみに内田喜郎とはテーマ曲の『少女ひとり』を歌っている人である。僕の中では俳優のイメージがあったが、歌もなかなかのもの。しかし『快刀乱麻』のあたりからあまりテレビに出なくなったような印象がある。
 この『快刀乱麻』というドラマ、明治期を舞台にした推理もので、(おそらく意図的に)野暮な演出が随所に出る。たとえば、当時の世相の解説などがところどころナレーションで挟まれるが、その際、笛の音が鳴って、それまで演技していた役者が突然停止する。ビデオのストップ・モーションのようなものなのだが、実はストップ・モーションではなく、役者の方が動きを停止して、次に笛が鳴るのをそのまま待っている……つまり、「だるまさんがころんだ」状態なのだ(微妙に身体が動いているのでわかる)。また、主役の結城新十郎(若林豪)が解決に乗り出すためにおもむろに立ち上がると、スポットライトが当たり「結城新十郞! この男の背中に竜の刺青があると言われているが、まだ誰も知らない」というナレーションが入る(毎回同じだが最終回では「……あると言われているが……もうすぐわかる」と来る)のも、結構野暮な演出ではあるが、このドラマではかえって味のある演出になっていた。ここらへん、すべてうろ覚えではある。またすでに隠居している勝海舟(池辺良)が毎回登場し、これが毎回推理を外すんだが、そのあたりもちょっととぼけていて面白かった記憶がある(「勝の御前」と呼ばれていた)。だから、いまだに勝海舟のイメージと言えば池辺良なのである。
 さて、今回ネットでいろいろ当たってみると、なんだかいろいろな事実がわかって、確かにそれなりの背景を持つドラマだったんだなとあらためて感じたので、ここで記録しておこうと思う。
 まず、このドラマには原作があったということ。なんでも坂口安吾(!)の『安吾捕物帖』というのが原作だそうで、明治時代が舞台というのもこれで少し納得がいくというものだ。それから現在VTRは最終回以外残っていないということ。当時カラー・テープが貴重だったので、前回のテープに上書きするように撮影していたらしく、したがって最終回以外残っていないのだ。だから今見ようと思ってももう無理なのである。
 さらにナレーションが佐藤慶だったというのも今回初めて知った。また、タイトル・バックが横尾忠則の絵だったことも! こう考えるとものすごく贅沢なドラマである。キャストも、僕が憶えているところでは、若林豪、池辺良の他、河原崎長一郎、花紀京、尾藤イサオ、植木等など、今思うと豪華絢爛である。それぞれのバックグラウンドを見ると、新国劇、東宝、東映、吉本新喜劇、歌手、ジャズ・コメディときわめて多彩。なお、佐藤慶は俳優座出身である。各回ゲストで出ていた役者も(僕はほとんど憶えていなかったが)むちゃくちゃ渋い! こうして見ていくと、まさに「伝説のドラマ」という形容にふさわしいではないか。
 ところで、内田喜郎のテーマ曲「少女ひとり」がCD化されているということをWikipediaで知ったので、電光石火、快刀乱麻の勢いで早速借りてきた。この歌が収録されているのは『ちょんまげ天国 in DEEP』というコンピレーション・アルバムで、この『ちょんまげ天国』のシリーズはそのおちゃらけ加減が正直鬱陶しいんだが、他には出てないので致し方ない。実際に今回この曲を聴いてみた感覚であるが、意外にも全然懐かしさがなかった。ほとんど記憶通りで、目新しさをまったく感じなかったためである。こういうのも珍しい。僕にとって『快刀乱麻』はそれくらい強烈な印象があったんだろうと思う。ちなみにYouTubeでも聴けるようだ。興味のある方はどうぞ。

2010年4月記
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「竹林軒出張所」選集

『快刀乱麻』を聴く

 上の『内田喜郎と快刀乱麻』のところでも書いたように、かつて『新十郎捕物帖・快刀乱麻』というドラマがあった。1973年から74年に全26話が放送されたもので、前にも書いたようにスタッフもキャストもユニーク、演出も非常にユニークなドラマだったが、残念ながら最終回以外映像が残っていない。最終回は以前その一部が『テレビ探偵団』というバラエティ番組で放送されたが、めったにお目にかかれない。もしかしたら視聴者が個人的に録画したものが残っていて、それが出てくる可能性もないことはない(『同棲時代』のように)が、あまり期待できそうにない。しかし音声ならば一部残っていた。ASKDFHJOEIHという人がYouTubeに現時点で2話分アップロードしてくれていて、それを聴くことができる。2話分といってもどちらも一部であるが、そんな贅沢は言っていられない。何しろまったく残っていないんだから。
 そのうち第21話「鳥と鳥とをとりちがえ」(YouTube:快刀乱麻 第21話「鳥と鳥とをとりちがえ」)は36分間分収録されていて、これがあのドラマの味をよく伝えてくれる。花紀京の泉山虎之介と植木等の花逎家因果、河原崎長一郎の古田巡査が非常に良い味を醸し出している。若林豪の結城新十郎は原作と大分イメージが違うが、池部良の勝海舟はドンピシャリ。愛人のお馬さん役をやっていたりするのも良いし、虎之介との掛け合いも抜群に面白い。難を言えば、冒頭部分がないため、ドラマで起こった事件の概要がわかりにくいという問題はあるが、やはり致し方ない。聞けるだけありがたいってもんだ。
 もう一方の第23話「唐獅子牡丹に血汐がボタン」(YouTube:快刀乱麻 第23話「唐獅子牡丹に血汐がボタン 」新十郎の謎解き)の方は最後の5分だけで、ストーリーはなんだかよくわからないが、ドラマの雰囲気はよく伝わってくる。泉山虎之介と花逎家因果の掛け合い、虎之介と勝海舟の掛け合いが楽しく、このドラマの魅力の一端がわかる。
 なお、唯一残っている最終回については、『テレビ探偵団』で紹介された部分のみ、YouTubeで見ることができる(YouTube:快刀乱麻最終回)。これは放送当時見た記憶があるが、歌を担当していた内田喜郎の奥さんのリクエスト投稿に基づいて紹介されたものである。適当に編集しているので全体像は見えてこないが、結城新十郞が原作のイメージとまったく違う任侠の人になっているのが少々気恥ずかしい。だが映像はこれだけしかないんだからやむを得ない。ただ最終回は他の回と雰囲気が違っていたような印象があるので、これがドラマ『快刀乱麻』だと言うと少し違うような気がする。何しろ残っていないんだからしようがないが。
 この70年代前半というのは、ともかくカラービデオテープの使い回しが多かったせいで、当時作られたドラマはその多くが失われている(竹林軒出張所『同棲時代(ドラマ)』を参照)。だから結局は、映像や音源が残っているかどうかは視聴者頼りということになる。今回『快刀乱麻』の音源だけでも聴けたのは大変ラッキーだったと言えるわけで、今後もこのような資料が出てくることを期待しつつも、一方であまり期待できないなーとも思う。とりあえずこのドラマの音声を投稿してくれたASKDFHJOEIH氏には感謝である。

2016年10月記
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「竹林軒出張所」選集

『新十郎捕物帖 快刀乱麻』(25)(ドラマ:音声のみ)

 
新十郎捕物帖 快刀乱麻 第25話 空手の約束は空手形1973年・朝日放送)
演出:西村大介他
原作:坂口安吾
脚本:佐々木守他
出演:若林豪、池部良、花紀京、河原崎長一郎、植木等、野川由美子、尾藤イサオ、志摩みずえ

音声だけでも十分楽しめます

 1973年に朝日放送系列で放送された『新十郎捕物帖 快刀乱麻』第25話「空手の約束は空手形」の音声がYouTubeにアップロードされており、今回時間ができたので聴いてみた。
 前にも書いたが、『新十郎捕物帖 快刀乱麻』は、最終回以外映像が残っておらず、よほどのことがない限り見ることはできない。ところが、かつて第21話「鳥と鳥とをとりちがえ」と第23話「唐獅子牡丹に血汐がボタン」の音声がYouTubeで公開されていたことから、これを聴くことができ、音声だけでも雰囲気は味わえるということがわかった。ただしどちらも、ドラマの中の一部であったため(第23話の方はわずか435秒)、本当に「雰囲気のみ」という感じである。ところが、前の2話をアップロードしていたのと同じ人(ASKDFHJOEIHというお方)が、その後、第25話もアップロードしたようで、今回聴いたのはこれということになる。しかもこの25話については、ほぼ全編収録されている。間のCMも入っているというおまけ付きで、今聴くと当時のCMも非常に新鮮である。ただ音声だけであるため、ほとんどラジオドラマみたいなものである。
 ストーリーは基本的に殺人事件の謎解きに終始するが、それを繋ぐ人物関係がなかなかコントめいていて楽しい。中でも勝海舟(池部良)、泉山虎之介(花紀京)、海舟の愛人である小糸(志摩みずえ)の掛け合いが秀逸である。おそよ(野川由美子)とそれを取り巻く中年男たち(花紀京、河原崎長一郎、植木等)の関係性も面白い。こういうところがこのドラマの一番の魅力だったんだろうとあらためて感じた。
 それから名物のストップ・モーションもあり(上記『内田喜郎と快刀乱麻』を参照)、もちろん画像は見ることができないが、登場人物が「バンザーイ」と叫ぶシーンで笛が鳴って、ドラマが停止し、佐藤慶の「万歳」についての解説が入る。なんでも「万歳」は元々「まんさい」と読まれていて、「ばんざい」と読むようになったのは、仮名垣魯文の『高橋阿伝夜刃譚』に「万歳」と書いて「ばんざい」とフリガナが付けられているのが最初で、これが我が国の「ばんざい」の始まり。この読みが一般化したのは帝国憲法発布式典のときからで、ちなみに「まんさい」を「ばんざい」と読むようにしたのは外山正一博士の発案だというような豆知識が披露される。ウーン、勉強になる。
 いずれにしても、終始楽しい雰囲気が漂っており、ミステリーで、ともすればおどろおどろしくなるようなストーリーでありながら、少し抜けた三枚目的な人物が緩和剤になって、面白い味を醸し出している。それに舞台が明治時代というのもユニークである。すでに映像も残っていないんであるから、これなどリメイクに持って来いの素材だと思うがどうだろう。もちろん、今の時代に合うかとか今の視聴者がこれを楽しめるかとか、そういったことについては、当方は一切関知しないからそのつもりで。
★★★☆

参考:
YouTube『快刀乱麻 第25話 空手の約束は空手形 前半』
YouTube『快刀乱麻 第25話 空手の約束は空手形 後半』
竹林軒出張所『明治開化 安吾捕物帖(本)』

2018年7月記
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