思しきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心ちしける(大宅世継)

批評、随筆、芸術のアーカイブ・サイト……竹林軒

2004年の5本:映画

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タイトル

制作年・国

監督

1

アフガン零年:OSAMA

03年・アフガニスタン、日

セディク・バルマク

2

白い風船

95年・イラン

ジャファール・パナヒ

3

69年・仏、アルジェリア

コンスタンチン・コスタ・ガヴラス

4

たそがれ清兵衛

02年・松竹

山田洋次

5

ザ・カップ 夢のアンテナ

99年・ブータン、豪

ケンツェ・ノルブ

番外

WATARIDORI

01年・仏

ジャック・ペラン他




 学生の頃は年間200本前後の映画を見ていた。すべてが劇場公開のもの(ビデオデッキがあまり普及していなかったため)で、名画座(京都の<今はなき>京一会館と祇園会館<こちらは健在>がお気に入り)で何本もまとめて見ることが多かった。なんせ貧乏だったから。
 で、卒業してからは年間2、30本という程度で、映画からも遠ざかっているなという印象だった。が、2004年は、数えてみるとなんと93本も見ていた。社会に出てからの最多記録だ。ほとんどは、テレビ放送(BS、CS)をビデオに撮ったもので、劇場公開で見たものは数本しかない。それでも一昨年まではほとんど映画館に足を運ぶということはなかったのだ。正直、映画館で見るのは、あまり好きではない。まず、周りに迷惑な客がいると、はなはだ不愉快になり映画どころではなくなる。今はどうかわからないが、以前は、映画を見ながら傍らの連れに解説をほどこす兄さんや、上映中たばこを吹かす兄さん(たばこを吸うシーンになると頻出)、前の座席に足を乗せる兄さん(人の頭がすぐ横にあるのに)など、それはひどかった。劇場にもよるんだろうが。そういう輩に文句を言ったこともあるが、そうすると今度はこちらもイヤーな気持ちになって、これが上映中ずっと尾を引くことになる。こうなるともう映画どころではない。何のために見に行ったんだかわかりゃしない(井上陽水もかつてラジオで同じようなことを言っていたので、共感してくれる人がいるものと確信している)。
 そんなわけで、ビデオが普及するようになると、自然にそちらにシフトした。私が名画指向だったこともある。一般の劇場ではなかなか上映されないので、劇場にかかるのを待つより手っ取り早い。映画を見るときは、種類にはあまりこだわらず何でも見るようにしているが、流行ものにはほとんど飛びつかない。大体が失敗だから。一般的に、流行ものというのは質が高いんではなく、マーケティングに成功しているだけである。
 BSやCS、特にNHK-BS2は、レアなものもちょくちょくやるので気に入っている。もちろんコマーシャルや吹き替えもない。しかもビデオに撮ってから見るようにすると、途中で中断したりやめたりということもできる。つまり、従来の劇場公開の映画とは異なる方法で映画を鑑賞できることになる。むしろ文芸に近い。見るこちら側が主導権をとれる。
 暗室に閉じこめられた状態で映像を見ると、(困った客がいない場合だが)異常に集中できる上、体感の度合いも向上する。だからつまらない映画でもそこそこ楽しめてしまう。だがビデオの場合は、つまらない映画を見ようとしても最後まで集中力が持続しない。惹きつけるものがなければ最後まで継続して見ない。時間の無駄だと感じてしまう。
 だから映画について批評するような場合は、ビデオで見たものの方が良い。これが持論である。
 さて、2004年に見た93本のラインアップは こちら である。その中から5本+1本を選んでみました。多国籍に渡ってなかなか良いベスト5になったと思う。でも多国籍になったのはたまたまですよ。某映画雑誌じゃないんだからわざとそんなことしたりしません。
 どの映画にも共通するのは、意外性とリアリティだ。
 1位の 『アフガン零年:OSAMA』 は、テーマといい完成度の高さといい文句なし。ストーリー展開も無理がなく、先が読めずハラハラドキドキだ。これだけの質の高い映画が、戦争で荒廃したアフガニスタンで作られたことも意外である。まさに意外性の二乗! レビューでも紹介しているので、 こちら もご覧ください。
 2位の『白い風船』も、ストーリー展開に意外性があり、目が離せない。こちらは子どもの日常が淡々と綴られていく。子どもを使ったドラマにつきもののあざとさもない。むしろ子どもからの視点が巧みに表現されているという点で出色である。なんと言ってもキアロスタミの脚本がすばらしい。起伏の少ない小品だが、良い映画だ。
 3位の『Z』は古い名画だが、架空の独裁国家をドキュメンタリー・タッチで描いた逸品で、人間同士のせめぎ合いがリアリティを持って描かれ、ドキュメンタリーを見ているかのような迫真性を伴う。先が読めない意外性もあり、「早く先を見せろ」という気持ちでイライラするほどだ。
 4位の『たそがれ清兵衛』は、ヒット映画だが、特にストーリーの巧みさに感心した。3本の原作を1本にまとめ上げたらしいが、まったくそれを感じさせない、一体化したストーリーだ。キャラクターも魅力的で、展開も意外性がある。俳優陣も抑えた演技で良かった。
 5位の『ザ・カップ 夢のアンテナ』は、ブータンを舞台にした異色の映画(ワールドカップを見たくてたまらない僧侶学生の話)で、派手さはないが、ほのぼのした暖かさがある。一種の学園もの。
 番外は『WATARIDORI』で、優れた動物ドキュメンタリーだ。鳥の目から世界を見るという視点が斬新。まさに鳥瞰映画だ。当然ながら映像も美しい(それがウリだし)。
 結果的に動物ものと子どももので半数を占めてしまった。評者であるこちらの能力が問われてしまいそうだ。ハハハ。